ロロノア家の人々

    “亭主関白も、かかあ天下も”
 


西の方では、やたらと奥様や恋人へ贈り物をしたり、
綺麗だねとか愛しておりますと、臆面もなく口にもする。
それの最たるものだろか、
人恋しき季節に相応しく、
年も押し迫った師走に入った途端に、
奥方への感謝や敬愛を 夫が示す記念日があるそうな。
その日は、夫婦で食事や観劇に出掛けたり、
前もって用意しておいた花束や宝飾品を送ったりするとかで。
それに比べて東方は、
どちらかといや、まだまだ旧態依然というものか、
家長は夫、社長や地域代表も男が担うものだと決まっており。
誰が大黒柱だと思ってるんだとの大威張り、
妻や母という立場の女性らは、
意見するどころか、子供と同等扱いにされることもしばしばで。

 「ですけど、西の方の“女性優先”主義も、
  どっちかといや、
  か弱い存在だから大事にしてあげようっていう順番の、
  上から目線な代物だそうですけれどもね。」

 「ふ〜ん。」

井戸端に寄り集まって、
寒風にさらして干すための大根だのカブだの、
ごしごしとタワシで洗っておいでのおかみさんたちが、
立ち飲み屋の女将さんのこぼす“イマドキ”のお話へ、
そうなんだぁと感心しきりの声を返しておいで。
まま、そういう意見や見解を、
女性の身であっけらかんと口に出来るのは、
ここいらもそれほど
ガッチガチの亭主関白とやらが
まかり通っている地域ではなくなりつつあるからだろう。
電信システムや明かり用の電気こそ通りつつあるが、
自動式の便利な道具や機動力の大きい車なんてのは、
都会からの風のうわさにしか聞かないような、
まだまだ片田舎の農村地帯。
お天気の急変に右往左往し、
おっかない盗賊の噂におろおろしつつ、
それでも和気あいあい、穏やかに楽しく過ごせる、
ほどほどに豊かな里であり。

  ことに、ここ数年のうちは
  盗賊や野盗の噂へは さほど怯まなくてもよくなったため

雨が降らないとか、
とんでもなく性根の悪い風邪がはやっただとか、
そういう困りごとは昔と変わらぬが。
徒党を組んでやって来て、一気に襲い掛かる乱暴な盗賊が出る、
小さな里なぞひとたまりもないぞ…なんてな噂には、
それが間近な土地からの話であれ、

 『そうか、それは気の毒だったねぇ』
 『力になれることがあったら言ってよね。』
 『そうそう、男手が要るとか内職のクチはないかとか。』

対岸の火事、まったくの他人事のように相対すことが出来るのは、
このアケボノの村には、そりゃあ頼もしい道場があるからで。

 「そういや、秋になれば収穫を狙う盗賊が出るっていうよね。」
 「そうそう。
  里や村を襲うほどの手勢はいなくとも、
  売りにと運び出してる途中を、
  襲われることもあるんだってね。」

今時分の用心は、急な冷え込みだけじゃあない。
賊同士の抗争に負けたか、
こんな田舎へ流れて来る悪党だって
引きも切らぬのが今時の世間の常套だそうで。

 「でもまあ。」
 「そうだね。ウチの里は、
  ロロノアさんチの門弟さんたちがいるからねぇ。」

それはそれは生気に満ちてのにぎやかな道場には、
田舎には釣り合わぬほどに腕の立つお人らが、
門弟として集っておいでで。
それというのも、こちらの師範がまた只者じゃあない。
ここからではその欠片さえ見えぬ聞こえぬ、
そんなほども遠い遠い地の果てにあって、
しかも陸地より何倍も広いという大海原で。
小さな山里どころか、島でさえ王国でさえ滅ぼせるような、
そんな恐ろしい海賊たちを叩き伏せ薙ぎ払い、
当時の頂点に立った“海賊王”と、
剣を振るう者らの、やはり最強を誇った“大剣豪”が。
何が障ったか、それとも気まぐれか、
突然 陸(おか)へと上がっての行方をくらまし、
もはや幾歳月経ったやら。
そんな世界があることさえ知らないような長閑な里にて、
毎日あっけらかんと笑いつつ、それはのほほんと暮らしておいで。
やろうと思えば畑仕事も出来なかないが、
その身に馴染んだ特性を生かすのが、
不器用な彼らが生計を立てるには一番だろうと、
かつての師範が手を回してくださっての道場開設以来。
此処にだって他の里と同様に、
怪しい盗賊や海賊崩れや、果ては道場破りまでやって来るものの、
来訪者側がこてんぱんに伸されるばかりの結果しか出ず。
一番近い都会、大町の警察に引き渡しに行くのも繁雑なのでと、
途中に近隣まとめてのお支配を担う州回りの役人の番所があるが、
収容施設つきの出張所を、
こちらの里へも設けようかという話が出ているくらい。

 『だって、あの“大剣豪”がいるのだし。』

本来、世界政府やその直下の海軍が追い回す“海賊”でもある彼らだが。
陸へ上がってしまっていること、
たった二人しかいないこと、
そりゃあのほのほとのどかに過ごしておいでで、
国家や政府を転覆させんというほどの
ギラギラした野望があるようには到底見えぬこと、などなどから。
厄介な悪党をえいやっとひねってくれるのならば、
わたしら何にも知りませんとの途惚けまくりを通した上で、
単なる道場主とその家人という扱いのまま、
接しておいでのお役人たちであるらしく…。

  平和だねぇ、うんうん。
(苦笑)



       ◇


 「そっか、女はか弱いか。」

妻の日がどうとかいうご近所のおばさまたちのお喋りを、
通りすがりに何とはなく聞いたらしい当家のお嬢さんが。
あのね、お母さん、昨日は“あいさいの日”だったんだって…と、
お三時になったと帰って来、
ツタさんお手製の三笠まんじゅうにぱくつきつつ、
受け売りをそのまんま話してくださって。

 「でもね、ウチはお母さんも男の人だし、
  それに凄んごく強いでしょう?」
 「おうともさっ。」

何を威張っているものか、
ぐっと右腕を引き絞り、セーターの下に力こぶを作ったらしい奥方へ。
師範でご亭主の旦那様が、持ち上げた湯飲みの陰で苦笑をし、
おやつを用意してくれたツタさんが微笑ましいと笑ったのはともかく、

 「だからね、守ってあげなきゃの日じゃないのよね。」

……と、何故だかお嬢ちゃんまでもが
“えっへんvv”と胸を張ってしまったりして。
こんなほのぼのしたお茶の間へさえ、
さりげない格好で、
男女平等の気風が流れ込んでいるのでしょうか。(おいおい)
という冗談はともかく、

 「だがなぁ、
  海賊の…つか、海の上じゃあ、女も結構強いからなぁ。」

蜂蜜入りのふんわりした焼き生地に、
これもお手製のあんこを挟んだ美味しいおやつ。
ぱくりと食いつくごと、ついつい頬がゆるむ奥方の、
幼いお顔のまろやかさ加減へこそ、
苦手なはずの甘いものでも頬張ったかのように、
目許を細めて嬉しそうに見入っていた師範殿だったが、

 「なあ、ゾロも覚えてっだろ?」
 「ん? …ああ、まあな。」

不意を突かれたか、
ほんの一拍ほど、間をおいてから同意と頷いたご亭主へ、

 「まあ、俺らは色仕掛けとかには縁がなかったが。」

えへへぇと、何でだか嬉しそうに口にした奥方でもあって。
それへはさすがに“おいおい、子供の前で”と、
表情で知らせようとしかかった御亭だったが、

 「いろじかけって なぁに?」

奥方そっくりの黒々とした大きなお眸々をきょろんと見開き、
暖かそうなモヘアのセーターに、
胸当てつきのフレアのスカートという愛らしいいでたちのみおちゃんが、
そりゃあ素直に“な〜に?”と訊いて来たので…時すでに遅し。

 「…お茶を替えて来ますね。」

ツタさんがそそくさと立ち上がったのは、
居たたまれずに逃げたというよりも、
大人である自分の目があっては
口の回らぬ師範殿が、ものの言いように言葉を選ばねばと意識をし、
尚のこと困ってしまうのだろと、これでも気を遣ってのことであり。
ところがところが、そこへと畳み掛けたのは、

 「ばっかだな、みおは。」

やはり同座していた短髪頭の長男坊。
何をどう知っておいでか、
三笠を片手にしらっと澄ましてそんなお言いようを妹へと言い放ち、

 「いろじかけっていうのは、いろおにと一緒で…。」
 「え〜? お母さんはともかく、お父さんは やんないよお。」

   ……………………はい?

 「だから、お母さんが言い出したんだろうが。
  でもでも お母さんたちは引っ掛かんなかったぞって。」
 「あ、そっかあ。」

   ……………………えっとぉ?

馬鹿だなぁなんていう、
穏やかではない罵倒句で始まったのに。
お兄ちゃんすごいすごいとの納得を呼び、
そんなこんなな 子供同士のやり取りのみで、
何というのか、やや困った発言への“なぁに”が
あっと言う間にさわさわ鎮火してしまったらしくって。

 『……あれってのは、訂正とか要らんのか?』

どう考えても、
話を途中で引ったくってった長男坊が、
一丁前な物言いの中、何か大きな勘違いをしていたようだがと。
気づいたらしいが…そこはさすがに大人として、
その場では黙って流した父上が。
晩になって子供らを寝かしつけてから、こっそりと奥方へ訊いたらば、

 『うん。どうやら“色鬼”って遊びとこんがらがったらしくてな。』

今頃訊かれてもなと、
思い出すのに やや掛かってから、
にゃは〜と微笑って軽くお答えくださって。
ルフィも参加することの大かりし、子供たちには結構人気のある外遊び。
じゃんけんで負けた鬼が、何色と口にしたのと同じ色、
素早く探して手で触れれば勝ち、
探し損ねて触れぬうちに鬼に捕まったら交替…という遊びだそうで。
当然、そんなものを持ち出したんじゃないのは明白なので、

 『何へでも方向音痴なところまで、ゾロに似てるってのはどうよ♪』

出したばかりの藍染め火鉢の縁をするりと撫でつつ、
しょうがねぇよなぁと、
呆れるどころか満面の笑みを浮かべておいでなルフィお母さんなのは、
そこがまたかわいいと言いたいのが見え見えで。
とはいえ、それだとゾロもまた
勘違いの王者だったように言われているのは明らかなので、

 『早とちりなのはお前だっていい勝負だろうが。』

  ほれ、魚人島があるっていう深海へ行ったおりの
  船へのコーティングの説明を聞いてて、
  “塩分濃度”を、何かと勘違いしてなかったか?

  それはゾロだって引き分けだったじゃんか…と。

妙なことばっかり覚えておいでの、
困ったナンバー1と2を据えてた海賊団が、
何をどうして海賊王とそのクルーにまで上り詰めたのか。


  ―― 偉大なる航路の 七つの神秘の筆頭に、
     こそりと数えられていたりして?(おいこら)






   〜どさくさ・どっとはらい〜  11.12.04.


  *さりげなく、
   関西組のアニメでやっと追いつきそうな
   “二年後・新世界編”の最初の方での小ネタを入れてみました。
   あの二人が知ったかぶりからの“言葉ぼけ”をするなんて、
   なんて新鮮なんでしょうか、二年後…。

  *それはともかく。
(笑)
   そういや昨日は“妻の日”だったようなと、
   今頃思い出してます。
   (1月31日は 愛妻の日)
   (ついでに言えば、
    日本語の語呂合わせなので、
    世界共通じゃあないと思われます。)
   何か取って付けたような記念日ですけれど、
   そんなお題目でもないと、
   ありがとうとか好きだとか、
   素直に言えない、シャイな日本のお父さんたちなのかもです。

   ……というお話を書こうとしたはずなのですが、
   途中から何か妙な方向へとよれまして。
   一番 方向音痴なのはアタシだよ。(とほほん)。

めるふぉ 置きましたvv めーるふぉーむvv

ご感想はこちらへvv

 
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